「その部下を別部署へ異動させてほしい」
社長からそう言われたとき、私はすぐには納得できませんでした。
その部下は、私が一から仕事を教えて育ててきた人です。
ようやく安心して仕事を任せられるようになったタイミングでした。
もちろん会社全体で考えれば、人事異動が必要なこともあります。
でも、人を育てる現場にいる課長としては、「なぜ今なのか」という気持ちが強く残りました。
今回は、育てた部下を異動させると言われた経験から、管理職として感じたことを書きたいと思います。
一から育てた部下だった
その部下は、最初から仕事ができたわけではありません。
仕事を教えて、失敗したら一緒に原因を考え、できるようになったら少し難しい仕事を任せる。
そうやって少しずつ成長してきました。
最初は私が確認しなければならないことも多くありました。
それが今では、ほとんどの業務を任せられるようになっています。
困ったときには相談してくる。
必要な報告もしてくれる。
「この仕事なら安心して任せられる」
そう思えるところまで育ってくれました。
課長としては、本当にありがたい存在です。
私が部下育成で意識してきたことについては、**「部下を育てるとは?仕事を教えるだけでは成長しないと課長になって気づいたこと」**でも詳しく書いています。
突然の異動話
社長が退院して会社に戻ってきてから、組織の見直しが始まりました。
その中で、私の部下を別部署へ異動させるという話が出ました。
異動先は、私も見ている別の部署です。
そこは正直、ミスやクレームが多い部署でした。
もちろん、その部署も大変です。
人手が必要なのも理解しています。
会社全体で考えれば、人員を動かすこと自体は珍しいことではありません。
ただ、私が引っかかったのは、
「なぜ、このタイミングでその部下なのか」
ということでした。
育てた人材を失う現場の痛み
人を育てるのは簡単ではありません。
戦力になるまでには時間がかかります。
教える人の時間も必要です。
失敗のフォローも必要です。
その積み重ねがあって、ようやく任せられる人材になります。
その人が異動すると、現場では何が起きるか。
また一から教える必要が出てくるかもしれません。
仕事の引き継ぎも発生します。
チーム全体の生産性も一時的に落ちます。
だから課長としては、簡単に「分かりました」とは言えませんでした。
なぜこちらが穴を埋めるのか
私がさらに納得できなかったのは、その異動先の状況です。
その部署を教育してきたのは部長でした。
それなのに、ミスやクレームが多いからといって、こちらで育てた人材を投入する。
正直に言えば、
「なぜこちらが人を出して穴を埋めるのか」
と思いました。
もちろん部署同士で助け合うことは必要です。
私も自分の部署だけ良ければいいとは思っていません。
でも、人を動かす前に考えるべきことがあるはずです。
- なぜミスが多いのか
- なぜクレームが減らないのか
- 教育体制に問題はないのか
- 管理する側に課題はないのか
そこを改善しなければ、優秀な人を一人入れても根本的な解決にはなりません。
課長は人を育てるために何をしているのか
管理職になると、「人を育てろ」と言われます。
私も部下育成は課長の重要な仕事だと思っています。
仕事を教える。
任せる。
考えさせる。
成長を支える。
その結果、自分がいなくても仕事が回る状態を作る。
これが管理職の役割の一つです。
だからこそ、せっかく育てた人材を簡単に動かされると、
「じゃあ、自分は何のために育ててきたんだろう」
という気持ちになることがあります。
部下に仕事を任せることの考え方については、**「仕事ができる人ほど、仕事を抱え込まない|現役課長が部下に仕事を任せる理由」**でも詳しく書いています。
異動が悪いとは思っていない
誤解してほしくないのは、私は異動そのものに反対しているわけではありません。
優秀な人材だからこそ、会社全体で活躍してほしいという考え方もあります。
実際、他部署で経験を積むことで成長する人もいます。
将来の管理職候補であれば、複数部署を経験することには意味があります。
私も「絶対に異動させるな」と言いたいわけではありません。
ただ、現場で人を育ててきた側の意見も聞いてほしいと思います。
異動させるなら、
- なぜこの人なのか
- 異動先で何を期待しているのか
- 元の部署への影響をどう考えるのか
そこまで説明があれば、受け止め方も変わります。
人は機械ではない
人は、必要な場所へ持っていけばすぐに成果を出せるわけではありません。
成長するまでには、
教える人がいて、
失敗を経験して、
信頼関係を築いて、
少しずつ仕事を覚えてきた時間があります。
その過程を無視して人だけ動かしても、期待した結果になるとは限りません。
「人を動かす」より「人を育てる」
今回の件で改めて思ったことがあります。
会社にとって人員配置は大切です。
でも、それ以上に大切なのは、人を育てる仕組みを作ることではないでしょうか。
問題がある部署に人を投入する。
それだけなら一時的には改善するかもしれません。
しかし、本当に必要なのは、
教育体制を見直し、
管理方法を改善し、
人が育つ環境を作ることです。
優秀な人を連れてくるだけでは、また同じ問題が起こる可能性があります。
課長として考え続けたいこと
今回のことで、自分自身も考えさせられました。
課長になった以上、自分の部署だけを守ればいいわけではありません。
会社全体を見る視点も必要です。
他部署が困っているなら協力することも必要です。
その一方で、現場で人を育てる苦労も理解してほしい。
この二つのバランスを取ることが、管理職の難しさなのだと思います。
育てた部下が会社に必要とされることは、本来は嬉しいことです。
でも、人材育成の価値が軽く扱われるような異動であれば、現場の管理職は次第に人を育てる意欲を失ってしまいます。
だから私は今でも思います。
人を動かす前に、人を育てることをもっと大切にしてほしい。
それが、育てた部下を異動させられた課長として、一番強く感じたことでした。
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